階段をおりる㉛3月下旬13:35
久し振りに!
担当が!
日比野さん!!
だったのに……
間が空きすぎて、心が壁を作っているみたい。
ソファ側のドアが開くと、久し振りの嘉島さん。
逆光と近眼で、奥に立つフットマンが誰か、すぐには分からなかった。
バッグを預ける段階になって、ようやく日比野さんだと気付いた。
銀色のフレームに、黒髪、低い声。……うれしい。
「担当させていただくのは、久しぶりでございますね」と、こちらを振り返りながら席へ案内いただく。
あれ。
いつかもこんなシーンがあったはずなのに、違う。
声の温度が低い。
「そうね」
わたしも、この違和感からか、日比野さんにときめかない。
あんなに彼を待っていたのに、おかしい、と思いながらも、時間が惜しくて、置かれたバッグからすぐにカードを取り出した。
「メアリ様、私が何も言わずとも(メンバーズカードを)ご準備いただいて…いつの間にこんなに大きくなられたのでしょう」
と、貼り付けた笑顔で、セリフを再生させるように。
初めて担当いただいたときから、彼は"お嬢様"との会話にとても慣れていて、感心するほどだったのだけれど。
それらはみんな、"お嬢様"と、わたしと、向き合ってくれて出ていた言葉だった。
今回のは明らかに分かる、つくった言葉、使い回している言葉、わたしのためではない言葉。
いつの間にこんなに、は、わたしのセリフだ。
彼はいつの間に、固い仮面を着けるようになったのだろう。
その仮面で、日比野さんが負担なくお仕事できるのなら、それでもいいけれど……
日比野さんが2回目、3回目、とテーブルへ来るたび、少しずつその固さは和らいでいったように見えた。
そこに安心したけれど、やはり初めに感じてしまった距離感に動揺して、『次に日比野さんに担当してもらえたときにしたい』と思っていたお話は半分もできなかった。
程なくして日比野さんは、おじいさまの手伝いで担当を離れた。交代したのは、燕尾の行き交うフロアの中でも、一際黒い使用人。
彼は正直苦手だけれど、日比野さんと向き合い続けることはつらかったから、よかった。
贅沢なもので、黒崎さんのカジュアルすぎるお給仕には、「お勤めして長いのだから、もう少し型を作ればいいのに……」と思ってしまうという矛盾。
でも優しかったし、距離があるのもよかった。そして、メアリお嬢様、とフットマンから呼ばれるのは久し振りで新鮮だった。
藤堂さんは「こないだはごめんなさいね」とまた声をかけてくれた。髪がさっぱりした影山さんも、笑顔でご挨拶に。
能見さんは、ワインの感想を聞きにいらした。シャブリの余韻が深くてよかったと伝えたら満面の笑み。
隈川さんはにこっとして「いいカップをご使用ですね」。お水を注いでくれた高垣さんは初々しく。
瑞沢さんは「私でよろしければ」と前置きしてからお皿を下げたり紅茶を注ぎ足したりしてくれる。断ったら悪い奴みたいじゃない……
マダムバタフライ、食事の量自体は問題ないのだけれど、デザートが多すぎる。甘いものを続けてたくさんは食べられない。プティデザートでぎりぎりなのに…スキップしたいな。できるかしら。
お料理は美味しかった!前菜もスープもメインも。
メインはヴィヤンド、脂の甘み、しっかりお肉を食べた満足感、フルーツを使ったソースもよく合って。心なしか、パンもいつもより美味しく感じられた。
いいカップを使ったから、見送りの際に嘉島さんが話しかけてくれて嬉しかった。
嘉島さんは帰りにきちんと、担当フットマン名を改めて示すところが好き。劇の終わりの、キャスト紹介みたい。
でもこれも、毎回のこと。嘉島さんのスタイルだ。
決まった型のセリフ。
ポジティブに、ネガティブに、受け取り方が違うのは、わたしの意識のせい。
期待値が高すぎるのは、やっぱりよくないの。
なんだか疲れたね。
ドアマン:金澤さん
執事:嘉島さん(久し振り!)
フットマン:日比野さん!→黒崎さん
お世話いただいた方:能見さん、瑞沢さん、高垣さん、ギフトショップで的場さん
お見かけした方:藤堂さん、香川さん?、後半椎名さん、伊織さん、百合野さん、隈川さん、影山さん、胡桃沢さん、ギフトショップで桐島さん
お食事:マダムバタフライ(前半・ヴィヤンド)
紅茶:アンバー
(紅茶係:滝ノ川さん)
カップ:マイセン ブルーオニオン