階段をおりる㉒1月下旬16:45
緑川……恐ろしい子!
気分が落ちていたので、予定にはなかったタイミングだけれど帰宅。
いい天気の月曜日。
階段をおりると、ドアマンは時任さん。
彼を見るたび、記憶の中の時任さんより、きっちりおでこを出していることにハッとする。毎回。
時間より少し早く着いてしまって、ソファで5分くらい待つ。
つい最近聞いた、高い声×高い声のお見送りが聞こえた方のドアへ案内された。
「おかえりなさいませ」
乾さん緑川さんペア。前回の後半とまんま同じ。この安心感よ。
緑川さんに服を褒めていただきながらフロアへ案内されると、発見!!!藤原さん!!!
少し髪が短くなったような気がする。
緑川さんは相変わらずスマート。
どの"お嬢様"にもこの素敵な対応ができるのだろうなと、尊敬すら覚えてしまう。
「今日ね、藤原さんのお顔見られてよかった」
「使用人はいつか、いつかはみんな、旅立つものですからね」
そう前置きしたうえで、自分もあの知らせに衝撃を受けた、と。
暗い顔(をしていたと思われる)のわたしに、緑川さんは幾分か明るい声で、
「私も、この期間は、藤原との思い出に浸ることにいたしましょう。フットマンたちの頼れるお母さんですからね」
と言って笑ってくれた。
大好きなキングリアをいただいて、味噌のカクテル(甘い方を頼んで失敗した)もいただきながら、しばらくぼうっとしていたら。
「お注ぎ足しいたしますね」
と、藤原さんがティーポットを持ち上げた。
うわああ!
「きょう、エルグレコなの!」
「ありがとうございます。
…この子もね、いつまでお飲みいただけるか分かりませんからね」
「このあとショップに買いに行きます!」
藤原さん、わたしの温度の高さにやや引いていたかもしれない。
それでも、まだ担当してもらってないのにー、とか、髪切りました?とか、いろいろお話できて嬉しかった。
藤原さんはお顔と目の丸いのが印象的だったけれど、テーブルの向こうに見えた白いベストのウエストはすっきりしていらした。
失礼ながら、もう少しぷにぷにされているのかなと思っていた。
そんなことも知らないくらい、藤原さんと接点がなかったのに。これから先、お話できるのを楽しみにしていたのに。
かなしい。
後ほど、緑川さんがお化粧直しに連れていってくれた。
「藤原と、少しはお話しできましたか?」
「ええ、ありがとうございました。
緑川さんが言ってくださったんでしょう?」
「(変な間)
いいえ?
私は何も。藤原が勝手に、自分で行ったのですよ」
そう嘯いて、バッグを手渡してくれた。「あなた、本当にできるこねー!」
これをやってくれるフットマンはなかなかいない。わたしのアピールが足りないのかもしれないけれど。
落ち込んでいたから本当に嬉しくて、うきうきしてしまった。
席に戻ると、残りはほんの5分くらい。
カップにほんの少し残る紅茶を見つめていたら、ザッ!と効果音を付けたいくらいに勢いよく(感じられた)、わたしの前にフットマンが現れた。少しうつむいた目線に飛び込むのは、リボンタイ。
「メアリ様、おかえりなさいませ。
たった今お屋敷から戻ってまいりました」
先程までフロアにいなかった日比野さんが、グラスへほんの少しだけ水を足してくれた。
「ただいま。
…ね、藤原さん、いなくなっちゃうのね」
「さようでございます。メアリ様にとっては、本当に…お寂しゅうございますね」
沈痛な面持ちを絵に描いたような表情で頷く。
日比野さんは、わたしが日比野さんと藤原さんを気に入っているのを知っている。
「……そうね」
「メアリ様、私は、私はこれからもお屋敷におります!」
日比野さんの言葉の途中で、緑川さんは黙って、お釣りのトレーを置いて去って行った。もう時間なのだろう。緑川さんはできるこ。
察して、「お帰りをお待ちしております」と笑ってテーブルから離れる日比野さんも、いいこ。
こんなに優しくしてもらえる"お嬢様"というポジションは、なんて素敵なんだろう。
たまにはわたしが燕尾服の"おぼっちゃま"たちに尽くしたいくらい。
ドアマン:時任さん
執事:乾さん
フットマン:緑川さん
お世話いただいた方:水瀬さん、藤原さん!杉村さん、日比野さん!ギフトショップで相良さん
お見かけした方:吉川さん、大河内さん、伊織さん、浪川さん、桐島さん、園田さん、鹿野さん、洲崎さん、ギフトショップで八幡さん(黒髪)
お食事:キングリア
カクテル(復活のM・甘め)
紅茶:エルグレコ
カップ:ノリタケ アルマンド(緑川さんチョイス)