階段をおりる⑦10月下旬14:30
※前回の帰宅から1時間。お友達(男性)と会って時間を潰していた。
カフェで。
さすがに紅茶は頼まなかったけれど、今度一緒に帰宅してくれるみたいで、楽しみ。※
お屋敷へ戻ると、ドアマンは変わらず。
外国からの"お嬢様"2人が、楽しげに待っていた。彼女たちは少し早く受付されたらしく、わたしが先に通された。
次の担当はどなたかしら、と楽しみに扉の前へ立つと、ガラスの向こうに映るのは長身の男性。
おじいちゃん()ではない。
階段を上り切ると、すぐに扉が開いた。
「おかえりなさいませ。
お散歩帰りでございますね」
「ただいま!」
香川さん、と、この日はとさかヘアではない風祭さん。初めてのご担当。
お屋敷の使用人は先程と同じ顔ぶれ(当たり前)。
みなさんにこにこして、散歩帰りのわたしを迎えてくれる。
お腹いっぱいだったので、ギフトボックスに。
(この後、別宅に買ってあったスコーンのストックを思い出して頭を抱えるの巻)
鼻濁音の貴公子・香川さんとはお話のテンポがなかなか合わなくて申し訳なく感じる。お茶にお詳しいかなと思うので、もう少し話してみたいとは思うのだけれど。
嘉島さんがわざわざテーブルへ来てくださって、お早いお帰りありがとうございます、と笑いかけてくださった。
目が合った百合野さんも隈川さんも、にこっとしてくださって。
……なんと言っても、席が1時間前のすぐ横だったのだ。席に通されたとき、思わず失笑。
「ギフトボックス、お茶はいかがいたしましょう?」
「……アスカコートノーブルって、とってもミント?」
「はい、とってもミント、でございます」
「違うのにします」
お茶はお気に入りの金萱に。ミントにする勇気はなかった。
ストレーナーを使って注いでいただくの(を見るの)が好き。カップは『白と金っぽいやつ』で、アルマンド。こういった雰囲気はとても好みなので嬉しかった。
風祭さんは、『私は』ではなく、『風祭は』とお話しされる。
それと、『失礼いたします』ではなく、『すぐに戻ってまいります』とおっしゃる。すぐに戻ってこないときも、ある。笑
「何度かフロアでお見かけしていたのだけど、今日は髪が大人しいのね」
「実は、風祭の髪は、自分でもコントロールできないのでございます」
なんと。
「髪も自分で切っておりまして」
なんと。。。
風祭さんはちょっと不思議キャラかもしれない。
他のフットマンと比べても、幾分か見た目に男性っぽさの強い方だと感じた。トラ猫って感じ。
いくつか卓を回っていらして、少し忙しそうだったので、百合野さんや日比野さんが何度かお世話してくださった。
「このカップ本当に素敵ね」
「アルマンドでございます。
日本のノリタケが、イギリスのウエッジウッドのピオニーシェイプと呼ばれる形のカップを元にデザインしたものです」
「1客、手元にお迎えしようかしら」
「そうですね、使いやすいカップですのでおすすめです。華やかで、お嬢様に相応しいカップかと存じます」
と、お茶を注ぎ足してくださった百合野さんはやっぱり笑顔が素敵。黒目がちに見せるのがお似合いで、セルフプロデュースが上手ね、と頭が下がる思い。
アルマンド本当に気に入ったから買おう。
「お嬢様、おかえりなさいませ!」
日比野さんもテーブルに近付いて、嬉しそうにご挨拶くださった。目と鼻の先の卓を担当されているのだもの、もう、ソファから『頑張れ!』って声をかけてあげたいくらい。
今回は担当でないのに、よく見ていただいて、お水やお茶を注ぎ足してくださった。
「これまでで、日比野さんのお給仕が一番でした」
「!!
そう言っていただけるなんて、ありがとうございます。ちょっと裏で、泣いてまいります」
次に複数回帰宅する日は、ギフトボックスの回のために、レターセットとペンを持参すると心に決めた。書きものでないと手持ち無沙汰。勉強するわけにはいかないし。
百合野さんにお化粧室から席へご案内いただいたとき、青いナプキンを渡す拍子に、指がぶつかってしまった。
「申し訳ございません、触れてしまいました」
そんな厳格に、触っちゃいけないルールなのね!勉強になりました。一度マニュアルを見てみたいくらい。
藤堂さんが、交替の時間のようで、近くの卓に挨拶にいらしていた。
お見送りは○○執事が〜とおっしゃっていたので、担当の"お嬢様"なのねー、と思っていたら。
そのまま、全ての卓に挨拶にいらした。
わたしのところにも。
「本日も来ていただいて、ありがとうございます。私はこの時間で失礼いたします。ゆっくりしていってねえ」
労いの言葉をかけると、顔を上げて、きちんと目を合わせてにこっとしてくださった。笑顔のための時間を、数秒。
わたしはまだ、名もない"お嬢様"なのに。
背筋が伸びるような嬉しさ。
追加でリリスをオーダー。今日3ポット目の紅茶は、珍しくブレンドティーで、珍しくミルクティーにしようと思って。大好きなアッサムと烏龍茶。
それも、オーダーを(タイミング的に)百合野さんに直接してしまうという……。ありがとうございます、と笑顔で言われて、さすがに恥ずかしかった。
風祭さんはリリスをルージュフュメで持っていらした。アルマンドとの組み合わせが対照的で、好みだそう。
ルージュフュメはハンドルが小さいので、摘んで持てるところがとてもいい。
「風祭は、ルージュフュメの白い部分が特に気に入ってございます。よく見ると、同じ白で、花の模様が入っております」
わ、ほんとね。
こういうのを好むのはおしゃれね。色は鮮やかだけれど、地味なカップと思っていたのが覆った。
「お嬢様はアッサムとキームンがお好きなのですね。
風祭はニルギリをよくいただきます」
「くせがない紅茶ですね」
「ええ、爽やかでくせがないお茶ですが、お食事によく合いますので」
風祭さんは、押し付けがましくなく、お話の中で新しい視点をくれるところがよかった。お給仕にも余裕が見えて、ゆっくり過ごすのにはこちらも気が楽。
帰りにはみなさん、わたしのことを"存じていますよ"といった顔で、いってらっしゃいませ、と見送ってくださった。
一層、お屋敷の"お嬢様"に近付いた気がした。
ドアマン:お名前不明
執事:香川さん
フットマン:風祭さん
お世話いただいた方:百合野さん、日比野さん
お見かけした方:藤堂さん、嘉島さん、能見さん、隈川さん、緑川さん、有村さん、園田さん?他お名前不明
お食事:ギフトボックス(スコーン……のはずが、帰って開けてみたら中身は焼き菓子)
紅茶:金萱
(紅茶係:御茶ノ水さん)
カップ:ノリタケ アルマンド、リチャードジノリ ルージュフュメ